まるで夢を見ているかのように過ぎていく毎日に少しだけ、眩暈を覚えた。





     __SLOW STEP__





朝の匂いは何時も悲しい。
その理由をあたしは知っている。殺されてしまった夜の匂いだ。

「おはようっ」
「おはよっ」

笑顔を浮かべて答えることは辛いことじゃない。
その笑顔だって嘘じゃない。
全てが、リアル。

けれど、あたしの足は、地に着いているの?



窓の外を雲が流れて行った。
あたしを置いて、どこへ行く気なんだろう。


「浮かない顔をして居るね」
「…?あ、うん、そっかな」

後ろから急にした声に振り返ると、無表情に彼が立っていた。

「リーマス、あなたこそ」
「浮かない顔をして居る?」
「そう」
「そっかな」
「さあ」

彼はいつものように笑みを浮かべる。
その笑顔は、嘘じゃない。
何時もうそ臭いけれど、でも嘘じゃ無いと、あたしは思う。

けれど、あなたの目は、何処を見ているの?


「ああ、センチメンタル」
「うん、そんな感じだね」
「リーマス、何処を見てるの?」
「うん…」


答えにならない返答を返すと、彼は満足したかのように頷いた。
あたしは眉をしかめて、それから思いなおす。
答えになる答えを求めない、なんてセンチメンタル。


「遠くを」

「え?」


ぽつりと彼が告げた言葉の意味を一瞬量りかねて、あたしの返事がその分遅れる。
彼はその些細な変化に気付いて、少し笑った。


「ごめんね、さっきの話だよ」
「ああ、うん」
「遠くを見ていたんだ」
「遠くには何が見えるの?」
「未来…」
「えー」
「は、見えない」
「ふーん」
「やっぱり、今が見える」
「今が見えるの」
「そうだよ、今が」


あたしも目を凝らして見た。

窓の外を、あたしを置いて、雲が流れていくのが見えた。


「…今なのかなあ」
「さあ。あ、でも、こっちこっち」
「え?」


呼ばれたほうを見ると、リーマスが自分の顔を指差す。


「ほら僕とか、今でしょ」
「なんかナルシスト」
「そんなひねくれたこと言わない」
「はあい」
「ま、遠く無いけどね」
「じゃあ、駄目じゃない」
「じゃああっちは?」


リーマスが指差したほうにたくさんの生徒が見えた。
あたしは数度頷いて、今だね、と答える。


「ま、遠く無いけどね」
「ちょっとだけ遠いから、オッケー」
「ちょっとだけでしょ」
「そんなひねくれたこと言わない」
「はいはい」
「もー」
「君はどうして雲なんか見るの?」
「いきなりね」
「さっきも見ていたから」
「うーん…遠いからじゃない?」


あたしを置いて行ってしまうものは、とてもあたしを引き付けて、離さなくて、
あたしを寂しくさせて、夢のような毎日をただ無為に通り過ぎさせる。
そんな気がして、見張らずに居られない。
そんな馬鹿なことをいったら、貴方は笑うだろうか。


「遠いね」
「ね」
「遠くなんか見ても仕方が無いよ」
「自分も見てたくせに」
「まあね」
「ほら」
「でもそれで、結局、今しか見えないと言う結論に達したの」
「…ふうん」
「どこを見ても今しか見えないよ」
「未来は?」
「見えなかった」
「残念ね」
「全然、残念じゃないんだよ、それが」


彼はそう言ってゆるやかに微笑んだ。
時計の針が進む音をあたしは聞いた。
あたしはそれに乗り遅れている気がしていたけれど、次の瞬間も、あたしはそこにいた。
時間もそこにあった。
彼もそこに居て、微笑んだままゆっくりと言った。


「今、君が見えれば、十分だからね」



「…ああ、そっか」




そして今日も眩暈をこらえてゆっくりと、あたしは進んでいる。















061208::sin(何かに追われるあまり意味不明なものを書いてしまったあたし)(えへ)