リリーリリー、お久しぶり。貴方のために筆を取るのは、初めての試みとなります。
なんと薄情なルームメイトでしょうか。下げた頭が上がりません。ですが一つ言い訳をしてもいいのなら、今日まで貴方の住所を私は知る術がなかったのです。
昨日初めて貴方の住所を知りました。一通の、白いハガキにそれが書かれていたからです。
残念ながら、私は貴方とジェームズに挨拶をしにそちらにお邪魔できません。私は今臨月で、長時間飛行機に乗ることが出来ないからです。
私がスクイブなのは、貴方もご存知ですよね?姿現しさえも出来ないのです。神は、なんと薄情なのでしょうか。この一瞬だけでも良いので、私は魔力がほしいと悔しくて血が滲むほどに拳を握り締めました。
一般的な日本家庭には暖炉もなく、貴方の元まで行く手段を一晩中考えても思いつきませんでした。
おなかの子が無事生まれたら、一緒に貴方達のところへ行こうかと思っています。風の噂によれば、貴方の子と同じ年齢だそうですね。
堅苦しい話になりましたね。少し昔を思い出しましょうか。
そう、あれはまだ貴方がジェームズの手さえ握ってあげていなかった頃の話。いつも睨み合いや口げんかをして、私たちを困らせていましたね。貴方がジェームズに素直になれなかった訳を、今ならわかるような気がします。
私に、遠慮をしてくれていたのですね。
あなたは、私の気持ちに遠慮していたのでしょう?
そんなものは無用だったのに。ですが、貴方の気持ちを考えると、嬉しさと情けなさで胸に淡い痛みが広がります。とてもとても緩やかで温かかった私の親友。ふざけんな、優しい親友。ありがとう、優しい親友。
あの頃、一度だけみんなでホグズミートへ行きましたね。
貴方は妹へのお土産を買うと意気込み、趣味が悪いものばかりを選んでルームメイトたちにからかわれ、少し落ち込んでいたりしましたね。
そんな貴方が居た堪れなくて、私たちはまたついからかったりしたものです。愛情ですよ。愛情。
貴方があんまりにも悲しい顔をして俯いているものですから、私はつい出来心を起こしてしまったのです。
その時の貴方達は付き合い始めで。付き合う前のわだかまりやお互いの高すぎるプライドなどが邪魔してろくに話もしていなくて。そんなのじゃ、わざわざ身を引いた私の気持ちが報われない。せめて、世界中がうらやむほど幸せなバカップルになってもらわなければ、と。私はついお節介を焼いてしまいました。
コチラの方を興味有り気にチラチラと見ていたジェームズの視線を捕らえ、私はそちらへ向かいました。見ていたことがばれてしまったジェームズ・ポッターはバツが悪そうに視線を逸らし、慌てて友人達へ話しかけました。今日のランチはどこでとる?
しかし、そんなことにかまう私ではありません。私はツカツカと歩いていって、20センチ以上も差がある彼の肩を抱き耳元で囁きました。
いい?何も言わずにリリーの傍にいてあげて。
小さな小さな声で、真剣な声を出してそう言うと私は足早に踵を返しました。私の言葉を聞いたジェームズはぽかんと口を開け、呆然とその場に立ち竦んでいます。私の行動に気づいたルームメイトたちも、さり気にリリーの傍から離れます。私は貴方の傍まで行くと、にやりと口の端を上げて彼女に微笑みました。
今から超ウザイ男が来ても、ご勘弁☆
私の言葉に、落ち込んでいたリリーは首を傾げていました。私たちが全員撤収するところを見て、嫌な予感にかられたのでしょう。貴方は顔を真っ青にさせ、口をパクパクと動かしながら私たちに向かって何か言いたそうでしたね。ごめんなさい、あの時の貴方ときたら。7年間一緒にいて一度も見たことがないほどうろたえていましたね。
知っていましたよ。貴方のその表情が珍しい事ぐらい。
私は見てましたから。7年間、貴方を。貴方だけを。知って、いるのでしょう?知って、いたのでしょう?
貴方の前には、顔を少し赤くさせ恥じらいながら未来の旦那様がやってきました。貴方はいつもどおり、不敵な笑みを浮かべて腕を組みます。何か御用?あぁ、本当に貴方達はなんてまだるっこしく不器用なカップルだったのでしょう。顔を合わせれば喧嘩してばかり。
いつもならそこでへそを曲げるジェームズですが、その日は違いました。少し背を向けたと思うと、貴方に向かって手を差し出したり、あー悩みがあるなら、うん、その、聞くよ。などと貴方にとっては意味不明な言葉を言うのですから。私たちはつい我慢が出来ず吹き出してしまいました。だって、あまりにも貴方達が可笑しかったから。
その時の、怒りよりも恥じらいに顔を赤くさせた貴方の怒った表情は、きっとおばあちゃんになっても忘れません。
さて、そろそろ筆を置きましょうか。年をとるとおしゃべりになるというのは本当なんですね。
貴方達は今何をしているのでしょう。空の上できっと、いつもの喧嘩をしているのでしょうね。コーヒーの好みは、ジェームズが勝ちましたか?リリーが勝ちましたか?
卒業する時に出たあの真っ赤な汽車。あの汽車がなければ、私たちはいつまでも笑い合えていたのでしょうか。あの汽車が全てを変えてしまった気がしてなりません。日本とそちらはあまりにも遠く、生活環境の違いから連絡を取ることもなくなってしまいましたね。
白い白い、優しい百合よ。
今貴方に告げましょう。私の7年分の思いの丈を込めて。
愛していました。
(1980/11/02 )
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