子供でありたいと願うことがすでに
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恋なんてもう何回もしたことがあった。同じ寮のかっこいい先輩とか、クィディッチがすごくうまくてモテモテの選手とか、実家の近くのお店で働いてるかっこいい店員さんとか、図書館で数回見かけたインテリな先輩とか、もう数えきれないくらいしてことがあった、と、思っていた。
あたしはコドモだから、それが許されるような、そんな気で。
彼が、ルーピン先生が初めて学校にやってきた日、あたしはいつものようにあくびをかみ殺して彼の紹介を聞いていた。なんだか遠くからはよく見えなかったから、分かったのはローブが結構汚れてるなあとか、そういうことだけ。
「あの先生、けっこうかっこいいね」
隣にいた子がそんなこと言うから、恋多き女のあたしとしてはチェックしとかなくてはと思って眠い目をこすって頑張ったけど、やっぱりあたしに残る印象は薄汚れたローブと、
疲れた笑顔。(そしてあたしはその笑顔にひどく 惹かれたんだ。)
たった1度でも授業を聞いたら誰もが彼のトリコになってしまっていて、あたしもご多分にもれずそうだった。これまでも、かっこいい先輩とか、まあそういう今までの恋(だとあたしが思っていた幼稚な感情)(幼稚なことも分かっていた。)の原因はまわりの盛り上がりだったから、これもそういう恋だと思った。あたしはコドモだから。ただの、コドモだから。
でも何かがぽっかりとかけているルーピン先生の笑顔はすごくすごく残酷なほど魅力的で、あたしはいつもそれを遠くから声も立てずに食い入るように見ていた。
「は、良いレポートを書くね」
先生が一度だけそんな風に褒めてくれたことがあった。あたしは先生のレポートだけはほかのものに比べてずうっと頑張ってたから、ほんとにうれしかったんだ。まあ先生は、誰にでもそういうことを言うんだろうけどね。(それだからこそのルーピン先生だから、まあ、いいんだけど。)
「ありがとう、先生!あたし、頑張ってるんだ!」
「そっかそっか、えらいね」
先生がにこにこしながらそう言うからあたしもうれしくてにこにこしてたけど、ひとつだけいつも気に喰わないことがあった。
「先生はハリーばっかり構うよね」
「そうかな」
「そうだよ!ずるいです」
「あはは、ごめんね」
そう言ってぽんぽんとあたしの頭をなでる先生の手は大きくて乾いていて、暖かかった。
「もー、先生はいつもあたしのことコドモ扱いする!」
「だって、コドモじゃないか」
「そうだけどね」
「ね?だから、僕が教えて、守ってあげるよ」
先生は誰にでもそう言うことを言うんだろう。だからあたしの心臓がどれだけはねてるかなんて知らない。でもあたしもこんなのありふれたことだと思っていた。ガキくさいあこがれ。(だってそんなコドモでいれば、先生にそんなこと言ってもらえるん、でしょ?)
そんなこんなであたしの毎日は平穏だった。(なんかハリーとかはいつもばたばたしてるけどさ。あの子はなんか違うもんね。)でもある日の朝食で、スネイプ先生が変なことを言った。
「失礼ながら、ルーピン先生は、人狼であられるのですぞ!」
まわりがどよめく。あたしもびっくりして、意地悪そうなスネイプ先生の顔をきょとんと見詰めた。人狼については結構詳しく知っている。だってルーピン先生がレポートで書かせたから。(なんでまたそんなことをしたんだろう。)だからこそ、先生がきっといなくなってしまうだろうってことがわかった。そう考えると目の前が真っ暗になって、頭は真っ白になって、何も考えられなくなった。
何も考えられない頭のままでルーピン先生を盗み見た。やっぱり笑っていた。(何かが欠けている。いつもいつも何かが欠けている、けれど。)先生はあんな風に微笑んだままいなくなってしまうのだと思った。
どうしてももう一度会いたくて、あたしは朝食が終わってからルーピン先生の部屋に行った。あたしは先生のことが大好きだったから、(だって憧れてた、もんね?)どうしても会いたくて。ドアの前でしばらくためらってから意を決してノックする。
「はい、どうぞ」
先生の声がして、あたしは泣きそうになったけど我慢した。
「せんせー!」
「ああ、」
「先生って、人狼なんですか」
「うん、そうなんだ」
「いなくなるの?」
「うん、そうだね」
「やだな」
「ありがとう」
先生はそう言ってあたしの頭をなでた。優しくて大きくて暖かい手。あたしはもう二度とあなたに会えないのかな。そう思うと、何にも楽しくないような気がして、でもどうしようもない、そんな気持ちになった。
これまでも何回も失恋したことはあると思ってた。だってかっこいい人はみんなすぐ彼女ができちゃうんだもん。あ、でもあたしは自分から告白とか、したことはなかったけれど。
でも先生に対する気持ちは、なんかそういうのとはもう違うんだって、一瞬思ったけど、あたしはそれを隠した。あたしはいつまでも先生に教えられて守られるコドモ、でいなきゃなんない。そうじゃなきゃいけない。
「寂しいな」
「ありがとう、」
「…」
そう言って笑う先生の何かが欠けた笑顔を、あたしは一生、いや死んでも、忘れないだろうなあと思いながら見つめる。あたしの名前を呼んでほしい。、って。そしてキスして抱き締めてずっとここにいるよって言ってくれればいい。でもそれは叶わないことだから、あたしは、ここで、
「あたし先生大好きだったのに!」
「ありがとう」
こうして、このままコドモでいるから。大人になんてならないから。だからあたしのことを、忘れないでね。楽しかったこの場所でのことを忘れないでね。(あたしは自分の気持ちに蓋をしてでも、先生のその笑顔を、守りたいと、思ったの。)
さようなら、あたしのいとしいひと。
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大人である証拠なのかもしれない
071004 sin (恋のためなら自分にでも嘘はつける)