「あ、おはようございます。」 ご丁寧にペコリと頭を下げながらそう言った半透明な存在に、僕はたった今かけたばかりのメガネを一度外し、自分のパジャマのすそでチャチャッと拭いて、もう一度かけ直した。しかし、そこにいる人物は何度見てもソレで、僕は思わず大きな声でも出るかと思って口を両手で勢いよく塞いでしまった。 尊敬する人は世界で最初にウニを食べられると判断した人です 時はそこ2分ぐらい前に巻き戻る。 柔らかい朝の日差しだった。穏やかな緑とオレンジが生み出すコントラストの中で、ジェームズはうんっと背伸びをした。4人部屋の寮室の中で、今目が覚めているのはジェームズだけのようだ。クィディッチの練習の為に、今日は朝早く起きなければいけないとあれだけ言っておいたにも関わらず、シリウスはまだ枕を抱えてぐぅぐぅとイビキをかいている。ちょろろんっと垂れているよだれを小瓶にでも詰めて売り出せば、きっと沸騰した油の中に水を数滴垂らした時の反応ほどに売れるだろう。 ふっと微笑んだ拍子に世界が少しだけ色を変えた気がした。それを見逃す事無く視界に入れたジェームズは、無意識の内に首をぐるりと回す。ベッドの上から見える景色がいつもと変わりがないことに満足し、にっこりと微笑むとジェームズは棚に置いてあるメガネをそっとかけた。 「…。」 「あ、おはようございます。」 そして、外す。 パジャマの裾で適当に拭くともう一度かけた。 何度目を凝らしてみても、どれだけ瞬きをしてみても、目の前にある光景は変わりようが無かった。真っ黒な髪を腰まで伸ばした少女が、ちょこんとベッド横の棚の前に座っていたのだ。正座をして。緑色の可愛らしいワンピースに、灰色のマントを上から羽織っていた。 「…………………………………―――――――――君、誰。」 やっとの思いで絞り出した声は、何処か掠れていた。 「あ、はじめまして。私今日からこの部屋に住むことに決めました、見習い―――」 「は、ちょっ、ちょっと待とう。ちょっと待とうね君。僕はあれだよ、こう見えて結構寛大だから、君がシリウス目当てでこの部屋にストーキング行為に及んだとしても、今なら1週間奴隷として働く事で許してあげようという心意気ぐらいはある。もしくは、あーあれか!本当はリーマスが目的で、彼のチョコを奪おうとしたんだな?残念だけど、彼のチョコを君に譲る事は僕には出来ない。なんていっても彼はチョコの一つ一つに自分の名前を書いていて、1グラムも誤魔化す事は出来ないんだ。そういう魔法がかかってるからね。あぁそうだ、本命は僕―――という線も考えられるけど…」 か細い少女の声を遮ってジェームズは一気に捲くし立てた。そうでもしなければ、まるで自分が保てそうになかったからだ。普段の彼からすれば信じられないような驚き様に、彼自身もまた戸惑っていた。 しかし、そんなジェームズとは裏腹に少女は感心した面持ちでジェームズを見つめている。まるで、ゼンマイ仕掛けのおもちゃを初めて見た子供のような感激の仕方だ。キラキラと輝く瞳を命一杯に開いて、穴が開くほどジェームズを見つめている。 「―――…で、君は誰なんだっけ?」 「はい!私は今日からこの部屋に住むことに決めました、みな―――」 「はいちょっと待とう。ちょっと待とうね。そうだよ、僕が一番最初につっこむべきだったのはまずそこなんだ。『今日からこの部屋に』?『住むことに』?『決まりました』???君は一体何を言ってるんだい…!?」 ジェームズはホトホト呆れたかのように、メガネを外して額に手を押し当てた。ブンブンと強く頭を振ってみても、今自ら言った言葉は頭の中から出て行ってはくれない。むしろ、その行為によって頭の隅々にまで散りばめられたような気さえする。 「え?ですから。決めたんです。」 「そんな、悪いけどね。魔女は14歳になったら一人立ちするなんていうしきたりはこのホグワーツには無いんだよ。それにここは、埃やチリだらけのパン屋の離れ小部屋じゃない。僕たちの部屋だ。この部屋にはもちろん、僕たち以外の誰も泊まることは出来ないし、住むなんて尚更―――」 「わぁ、貴方は色んなことを沢山知ってるんですね!」 「ん?そうかい、困ったな。そんな本当のこといわれても。」 「貴方絶対尊敬する人は世界で最初にウニを食べられると判断した人でしょう?」 「何その微妙な例え!でもまぁウニは世界の38大珍味に数えても仕方ないと思うほど素晴らしいね!」 「そう言えば、貴方のお名前をまだ聞いていませんでした。お伺いしても?」 「君は話題を変える事に何の躊躇も無いんだね―――。よもやこの僕が、この僕が振り回されることになろうとは―――。ジェームズ・ポッターだよ。気品溢れる名だろう?」 「まぁ!貧乏なポット屋の長男のような名前ですね!」 「…。」 「他の方々にも挨拶をしたいと思うので、起こしてもかまいませんよね?」 「え、あ、ちょ、待ってよ君!」 少女の突然の提案にあまりにも驚いたジェームズは、つい口調まで幼くなってしまう。必死に彼女を止めようと手を伸ばしたが、彼女はジェームズに捕まる事無く宙を漂い、大きく息を吸った。 「おっはよぉございます!!」 耳を塞いでいても頭の芯まで響き渡るような、大音量が部屋中に響いた。 ガドガン卿のイビキよりも大きなその声はジェームズたちの部屋を伝い、グリフィンドール男子寮に響き渡る。驚いた生徒達はベッドから飛び起きドアを開け、こんな朝早くから隣人と顔を見合わせる羽目になった。しかし、音の出所がジェームズたちの部屋だとわかると、いつもの事だとあくびをしながら再び夢の中へと潜っていった。 しかし、そんな男子寮にももちろん例外はあった。ジェームズたちの寝室のメンバー、右から順にシリウス・ブラック、ピーター・ペティグリュー、リーマス・ジョン・ルーピンだ。 彼らは眠そうな目を擦りながらも意識を正常に保っているようで、必死に宙に浮いている者を見まいと目を背けていた。 「あぁジェームズ、おはよう。」 「今日は何の悪戯だ?ふぁ、目覚めは最悪だぜ。屋敷僕妖精にキーキー声で目覚めの歌を歌われた日を思い出した。」 「ジェームズぅ、僕まだ眠いんだけど・・・んん・・・。もう少し寝ちゃ駄目?」 口々にジェームズに話しかける親友達に、ジェームズはぎこちなく微笑んだ。 「やぁ、おはよう。親愛なる我が友よ。」 「おはようございます!」 ジェームズの挨拶にここぞとばかりに便乗した少女の声に、ピーターがピクリと反応をした。 「シリウス、今度は誰を連れ込んだの?この間噂になってたレイブンクローの子?」 「れいぶんくろー?」 「馬鹿か、あいつは見かけだけだったよ。頭よさそうな顔してて、中身スッカラカン。あんまり馬鹿だからもう飽きた。」 「すっからかん?」 「んじゃハッフルパフの子かい?」 「いや、あいつは固くてね。まだ手を出せてない。」 「はっふるぱふ?」 「君らしくない。」 「俺だって遠慮ぐらいするさ。人によって遊び方も変える。」 「ほぉ!さすがはホグワーツ一の遊び人のセリフだね!」 「うっ…どうして、誰も答えてくれないのっ…ぐっす…うう―――!」 「うあああああああああ!!!待て待て待て待て待て待って!いいいい今から説明するから、泣くのだけはやめてくれ!」 ジェームズの甲高い悲鳴は少女の涙を止めるのに十分だった。少女はジェームズの慌てふためく様子を見て、コロコロと笑う。 「―――ジェームズ。誰だよ、こいつ。」 「…さぁ。」 答えは既に出ているのに、ソレを自らの口から出す事が怖くてジェームズは頭を振る。 「ハッ、そうでしたね。ジェームズさんには挨拶していただいてたのに、私がまだでした。名乗り遅れました。」 そう言った少女は、たっぷり5秒は置いた後、にっこりと微笑んで高らかにこう言った。 「私、今日からこの部屋に住むことに決めました≪見習いバンシー≫のと申します!宜しくお願いいたします!」 ここにまた、破天荒な“悪戯仕掛け人”と肩を並べてよさそうな 【eiko:06'04'24】 ネタが思いついて、どうしても書きたくてたまらなかった話。まぁ題名が笑いに走ってるからいいじゃない。『こんなふざけた話があるか!』と追い出そうとしたシリウスについ涙ぐんだバンシーがちょこっと反抗して、ジェームズとリーマスにシリウスが殴られるんですよ。『君この状況わかってる?』『相手は バ ン シ ー なんだぞ?泣かせるやつがあるか!』とか怒られればいい。あー楽しいだろうなぁ!お荷物同居人(爆笑)好評だったら続編とかも書きたいなぁとか企んでます。(ところでこれ、一応ジェームズ夢なんだけど、いいんだろうか。) あ、バンシーってあれです。お屋敷とかに住んでて、死者を予言する事が出来る幽霊(妖精?)の事です。3巻でシェーマスか誰かの一番怖いもので出てきてます。バンシーが泣くと、家の誰かが死ぬといわれてます。最近は色んな本にも出てきて注目されてる妖精さんですよね。 |